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翻訳雑感、読書、手芸など


by ars_marloowe_june
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『不思議の国のアリス』とジャガイモ

さて、先日の安井教授の発表のもう一つは「ジャガイモ」について。
ジャガイモが出てくるのは、以下のところ。

アリスは白ウサギにお手伝いさんのメリー・アンと間違われて、
手袋と扇子を白ウサギの家に取りに行くよう、命じられる。
ここで、また瓶を見つけたアリスは飲むと、身体が大きくなり、
片腕と片足が窓から飛び出してしまう。すると、ウサギの声が
聞えてくる。

Next came an angry voice---the Rbbit's---"Pat" Pat! Where are you?"
And then a voice she had never heard before, "Sure then I'm here!
Digging for apples, yer honour!" "Digging for apples, indeed!" said
the Rabbit angrily. "Here! Come and help me out of his!"
(Sounds of more glass.) "Now tell me, Pat, what's that in the window?"
"Sure, it's an arm, yer honour!" (He pronounced it "arrum.")
"An arm, you goose! Who ever saw one that size? Why, it fills
the whole wndow!"

次に腹を立てた声、 「パット!パット!どこにいるんだ」というウサギの声が
聞えてきた。それからアリスが一度も聞いたことのない声。「ここにおります
ですよ!りんごを掘っておりますんですよ、だんなさま。」「おい!こっちに来て
私を出してくれ!」(ガラスの割れる音がさらにする。)「教えてくれないか、さぁ、
パット、窓のところにあるのは何なのか。」「もちろんでさぁ、うでっででごぜぇますだ、
だんなさま。」(うでっで、という音をパットは出した。)「うでだよ、この薄のろめが!
あんな大きなうでを誰が見たことがあるんだ。何と、窓をふさいでおるぞ!」

ここで、パットが掘っているりんごとはジャガイモ。パットはパトリックで、セント・
パトリックはアイルランドの守護聖人。また、アイルランドは、気候が厳しく、かつ
土地が非常に痩せており、まともに作付け出来たのはジャガイモだけだった。
1840年代は「飢えの40年代」 ”the hungry forties”と呼ばれたが、
アイルランドでは、1846-48年、potato famineジャガイモの大凶作が起き、
当時の人口の4分の1の200万人ほどが餓死。アイルランドに見きりをつけ、
米国に移住するケネディの祖先たちのようなアイルランド人もいた。

スタンリー・キューブリック監督(1928-1993)の『バリー・リンドン』 ,
Barry Lyndon (1975)では、英国の支配下にある
アイルランドが出てくる。不在地主の英国人、
不在地主のために働くアイルランド人。両者の軋轢は深かった。
その応酬をジョークに見ることが出来る、と安井教授はジョークを幾つか挙げていた。
例示の最後のものがもっとも印象的だった。

「世にいう1846-48年のじゃがいもの大凶作は、どうして起きたか分かるかい。」
「いや、分からない。ぜひ教えてくれ。」「それはな、アイルランド人が、どこに
じゃがいもを植えたか忘れちまったからだよ。」

このジョークに関してだが、これがイギリス人によって出されたものだという見方も
あろうし、アイルランド人によってだという見方もできよう。すなわち、「イギリス人の
旺盛なヒューモア精神は、アイルランドのじゃがいも凶作という悲しい出来事を、
まぬけなアイルランド人というジョークの連作に加えてしまう」という見方もあろうが、
冗談なのだが笑えない、アイルランド人自身の自嘲的なdead punとも見ることが
出来るのではないか。アイルランド人が言ったジョークとしたほうがずっとパンチが
あるということになろう。
by ars_marloowe_june | 2007-01-29 21:47 | その他