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翻訳雑感、読書、手芸など


by ars_marloowe_june
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『明日の記憶』

『明日の記憶』

『明日の記憶』、萩原浩(おぎわらひろし)、
光文社、2005(2004)年。

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この本は昨年の8月に読みましたが、読んでいてスンナリしないところが
ありました。これはアルツハイマー病に罹ってしまった主人公の日記ないし
手記であるが、病気が進んでいるのにはっきり自らの行為について書いて
いるのである。

自分自身を見ている、見ることが出来ているのである。
およそ、この病気に罹ったら、途中からこれは不可能なはずだ。
これに違和感を覚えたのだった。

以下は、この物語の荒筋です。

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広告宣伝業に勤める主人公佐伯(さえき) は、50歳。
レオナルド・ディカプリオの名前が出てこなくなる。
ダスティ・ホフマンの名前も怪しくなる。

若年性アルツハイマーの初期症状と診断される。

日記を防備録として付けることにする。
これは、アルツハイマー日記だ。

痴呆のボケとアルツハイマーのボケは異なる。
通常の痴呆は脳の血管の異常が原因だが、
アルツハイマーの場合、脳の神経細胞が冒される。
アルツハイマーに罹ると、ショート・スパンの記憶が
なくなるだけでなく、人格まで破壊されてしまうのだ。

簡易知能評価スケールというテストを使う。
「7、9、3、5」と言われたら、逆にして、「5、3、9、7」
と答えさせる。
あるいは、最初に、「朝顔、飛行機、犬」というのを
覚えてくださいと言っておき、他の質問の後で、
思い出させて答えさせる。
TVでよくやっている問題と同じタイプである。

佐伯の父もアルツハイマーだった。
父の場合、70歳になってからだったが・・・。

喫煙するとアルツハイマーのなりにくいという説もあり、
一日5本と決め、喫煙を始めた。
アルツハイマーの予防にはDHAやEPAの摂取が
良いということで、魚がお薦め。
佐伯も妻の枝実子も肉のほうが好きだが、魚を
食べるようにした。
二人ともかぼちゃが嫌いだったが、かぼちゃも食べた。
ブロッコリーは葉酸(ようさん)が豊かで、
アルツハイマー予防にお薦めだそうだ。
白米より玄米。
玄米茶、発芽玄米茶がお薦め。

アルミニウムを体内に摂り入れるのが良くないという
説もある。
妻は浄水器を買い換える。
妻の枝実子は緑色のブレスレットを夫のために買った。
緑は右脳を活性化すると聞いたからだ。
30万円以上していた!?

アルツハイマーに冒されると、食欲がなくなるという。
味覚と臭覚が狂ってしまい、食べられない物も
口にしてしまうことになるという。
高級チーズと思って石鹸を齧ってしまうというのだ!?
汚いという感覚も麻痺ないし喪失するので、
入浴をせず、服と着たきりスズメし、排泄物を平気で
掴んだりするという。

医師には前向きに社会に関わることは症状を
抑えるが、会社にはアルツハイマーのことは
申告しておいたほうが良いと言われるが、
佐伯はこの記憶を喪失することにした。

坑痴呆薬のアリセプトを飲み始める。
3gから5gになるが、医師には5gが普通だと言われる。
しかし、「あの件はどうなっていますか?」と聞かれ、
いつも「どの件?」と聞き返していることも出来ない。

クライアントとの打ち合わせを忘れてしまう。
そうしたことがないようにと、出勤30分前に行き、メモる。
他の人の言ったこともメモしておく。
頑張っていたが、道に迷ってしまう。
局長に会議の変更を言われた。
大丈夫だと応えたが、すっぽかしてしまっていた。

佐伯は営業部長だったが、部下に自分がアルツハイマーに
冒されていることを上司に言いつけられてしまう。
局長から早期希望退職するように言われるが、
一応、断わり、社内資料管理課に移るが、
娘が結婚式を挙げたら、辞めようと考える。

アルツハイマーに冒されると、記憶喪失だけでなく、
鬱病、(被害・嫉妬)妄想、幻覚、暴力的な衝動に
襲われるという。

佐伯は自分が徐々に記憶と知性を喪失し、簡単な
計算も出来なくなり、言葉も喋れなくなり、服の着替えや
トイレも不自由になり、赤ん坊のようになるばかりか、
最後は微笑むこともなくなるのを知ると、ホームに
入ったほうが妻の負担を減らせるだろうと考えた。
娘の梨恵が出来ちゃった婚で孫が生まれ、妻が
自分だけの面倒をみているわけにも行かないからだ。

候補になるホームを見に行く。
妻を連れてまた伺いますと言うと、奥様を診察させて
頂きますと言われる。
「それには及びません。こちらにお世話になるのは私
ですから」と言うと、事務係長が目を丸くした。

■土に帰る

佐伯は大学を27年前に大学で同窓だった児島に
薦められて、菅原老人のところで陶芸を始めた。
その後、かなりのブランクが会ったが、木崎先生の
ところで陶芸を再び始めた。
木崎先生のところには、黒柚(こくゆう)枝垂桜文の壷が
ある。
登り窯で焼いたもの。失敗作だが、捨てるのに忍びなく
ゴミ箱にして使っている。

木崎先生として尊敬していた佐伯だが、焼成(しょうせい・
土を焼いて石化すること)の代金、同じ焼き物に対して
繰り返して請求される。
アルツハイマーゆえに?!
メモを取り出して確認すると、払ったと書き込んであった?!

木崎先生には今度を期待すると言ってから、
木崎陶芸工房関係のメモを黒柚枝垂桜文のゴミ箱に捨てる。

ホームを見学に行ったついでに足を伸ばし、児島に
連れられて行った菅原老人の窯を訪ねる。
菅原老人も痴呆に冒されていた。
二人は酒を酌み交わしながら、野焼きをする。
野焼きの火でジャガイモや玉葱を焼いて二人で食べる。

また来ますと菅原老人に挨拶し、来た道を返すと、
女性が吊り橋のたもとに立っている。
名前を訊ねると、「枝実子といいます」と言う。
「いい名前ですね」と佐伯・・・。

『明日の記憶』・・・明日は我が身・・・ジーンと来た。

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この小説のことを思い出す機会は弟が道元の『正法眼蔵』の時間論に
ついて話してくれる前に、(1)アルツハイマー病についてまた考える機会が
あったこと、更に先週の金曜日に、(2)壊れた蛍光灯がチカチカするのを
見て、意識の不連続性を連想させたこと、この2点がありました。
特に(2)の意識の非連続性は、例えば、「ながら族」という捉え方が意識の
連続性を前提にしたものであることを示していると思われました。
つまり、非連続的なものとして意識を捉えるほうが、「無意識としての意識」も
「ながら族」という異なる意識の共時性を理解しやすくなるということなのです。

道元の時間論はスゴイというのは聞いていたのですが、あまりにタイムリィ
ないしシンクロしていたのに吃驚してしまったのでした。
by ars_marloowe_june | 2007-01-25 01:43 | 読書